私の、あなたの、好きなひと

「霊夢、私……」
 その言葉は突然だった。
 いつも通り、特に何をするわけでもなくお茶をすすって、静かな時間を楽しんでいた。そしてまたいつも通り、はじめに口を開いたのは魔理沙だった。
「私、恋をしたかもしれない」
 驚いて顔を上げると、こちらを見ようとはせず、外を見ていた。頬が少し紅色に染まって、ぼんやりとした横顔。
「前からじゃないの」
 スペルカードにも恋符だとかつけているから。きっとこの子は恋をしているんだと、恋を知っているんだと思っていた。
「まだわからないんだがな。最近、気になる奴がそばにいるとどうも胸が苦しくなる。だから、これがそうなのかなって」
 私にもわかる。それが本当に恋をする少女の瞳であり、表情であること。
「そう。で? それを私に話してどうしたいの」
 魔理沙とお暗示用に外を見て返す。夕日がとても綺麗に光っていて、それでもどこか寂しくて、胸がきゅうっと締め付けられる。
 魔理沙もこんな感じなのかしら。
 そうは言っても、私は恋ではないから、違うのかもしれない。恋なんて、わからない。
「特にどうって言うこともないんだがな。お前には、言っておきたくて」
 優しく笑う。また切なくなる。
 近くにいたはずの魔理沙が遠くに行ってしまうような気さえした。
「伝えるの? 本人に」
「さあ、どうるべきだろう。そいつとも今の関係を崩したくないから、ずっと一緒にいられるなら伝えないほうがましかなって」
 この子がそんな風な考えを持って、見たこともない顔で、知らない誰かに恋をして、知らない世界に行ってしまう。
 でも、私はこうして話を聞くことしかできない。
「言われたら相手も嬉しいんじゃないの? あんたに好かれるなら」
「そうだといいな」
 思ってもいない言葉がポンポン出てくる。いや、これでいいと思う。私は博麗の巫女だから、ずっと一緒にいられる保証は無いし、魔理沙が幸せになれるなら、それで。
「さて、私はお暇するぜ。ありがとな……聞いてくれて」
 帽子をかぶり、箒を手に持って外に出る。
 振り返って見せると、ちょうど夕日で逆光になり、顔はよく見えなかった。
「じゃあな、霊夢!」
 小さくなっていく後ろ姿。それを見送って、気づく。
「やだ、私……」
 机に水滴が落ちたのを見て、次に手を頬にやる。
 久しぶりの、涙だった。
「なんで泣いているの?」
 自分への問いかけもむなしく、だれも返してくれない。
 考えてみても、頭の中に浮かぶのは、魔理沙のことばかり。
「私、もしかして」
 この瞬間からなのか、あるいはずっと前から気づいていたことで、知らないふりをしてきたのか。
 魔理沙が幸せならいいなんて真っ赤な嘘。きっとこの締め付けられるような感覚や、涙の理由も、そのせいなのだろうか。
「恋を……しているの?」
 魔理沙が知らない人と笑って歩いている姿を想像して、余計に涙があふれる。
 辛くて、苦しくて、その場で横たわる。
 傾いた世界で、私から落ちる涙は重力に逆らうことなく落ちて行く。
 体が重い。恋はこんなにもつらいものなの?
「魔理沙……」
 目を開けているのが嫌になって、目を閉じて、そのまま私は夢を見た。
 私と魔理沙が、ずっと一緒にいられる夢。

「なあ、どうして気づいてくれないんだ……?」
 星の輝く夜、別の場所でも同じように涙を流す少女がいた。


霊夢ちゃんは魔理沙の前では泣かないで一人になったときに泣くのがいいよねって思ってたらこの話ができました。
恋に気付く霊夢ちゃんや魔理沙ちゃんのお話はいくつか考えていましたがこれわりと好きです(?)
互いに気づくのはまだ先のお話、かもね。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


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