ひかり

今日は雨。
いつものように夕飯を作り、2人でゆっくりしていた。
もう夜だし、泊まる予定で来たから雨なんて関係ない。
寝る前に1杯飲むかという話になったのだが……
「だめ、点かないわ」
雷が落ちて停電。
神社は暗く、酒なんて言っている場合ではなかった。
「こんなことがあるなんて思ってなかったから蝋燭も切らしてるし……」
やっと目が慣れて、周りを見ると霊夢はうろうろしている。
停電の時はあまり動くべきではないと思うが、こいつに限って怪我なんて。
「痛っ!」
「どうした!?」
「引き出し閉めようとして指挟んだ……」
「あーどれ、ちょっと待ってろ」
まあこいつも人間だ。怪我くらいするさ。

「んー、よく見えないな」
紅白の巫女だって、暗闇にいれば私と同じ、白黒。
灯りがない今、挟んだ部分がどうなっているかもわからない。
小さな光でもあれば……
光?
そういえば昔も、夜停電になったことがある。



あれは私たちがまだ小さかったころ。
「あー、雨だ。霊夢、今日も泊めて!」
「ん? 別にいいけど、朝叩き起こすのはやめてね」
「わかってるー」
今日みたいな雨で、遠くの方で雷の音がしていた。
「また鳴った! おへそ隠さないと」
「はいはい。お布団敷いておくね」
「霊夢はおへそ隠さないの?」
「おへそ取ろうとするやつがいたら退治するもの」
「なるほど。さすがはくれいのみこ!」
そんな会話をしていた時だ。
外が一瞬、昼のように明るくなる。
それと同時にまるでドカンと何かが爆発したような大きな音。
「きゃあ!」
目の前にいた霊夢に抱きつく。
霊夢も私をしっかりと支えてくれたが、少し震えているようだった。
「あ……て、停電」
「真っ暗だ」
「……霊夢」
「怖いの?」
「う」
当時、私はあまり暗闇が得意ではなかった。
いろいろと嫌なことを思い出してしまう。
でも、隣に霊夢がいたから……
「怖くないよ」
「本当?」
「うん」
手をつないでいないと泣きだしそうだけど、
霊夢はしっかりと握っていてくれる。
「霊夢が、いるから」
「そう」
そう言って私の頭をなでてくれた。
「でもどうしよう。むやみに動けないから蝋燭も取りに行けない」
きっと霊夢ならもう目も慣れているだろうけど、手を握っていてくれるから。
離さないほうがいいってわかっているから、動けないのだろう。
「あ、そうだ魔理沙」
「なに?」
「魔法! 魔理沙の魔法は?」
「あ!」
少しずつ覚えた魔法。
まだ見た目だけしかできないけれど。
「見ててね」
練習の時みたいにぐちゃぐちゃの光ではなくて、
もっと綺麗で、かわいいの。
ゆっくりと自分の前でてを開き、心の中で強く“光って”と。
目をつぶって頭の中でイメージ。
小さな光が浮かんで、小さく照らすだけ。
光と言えば、お星様。
夜はあまり好きじゃないけど、きらきらして綺麗だから。
「綺麗」
霊夢がつぶやいた。
おそるおそる目を開けると、自分の掌の上で、いくつかの星が光を放っている。
もっと。
もっと霊夢を喜ばせたい。
ゆっくりと手を上に上げて、大きくイメージをする。
「無理しなくても……」
「ううん、私ならできる」
今までたくさん練習してきたんだ。
外は雨で見えないけれど、空に星が浮かぶような。
「わあ……すごい」
自分が作り出した光で霊夢の表情が見える。
目には私の魔法が反射している。
「魔理沙、こんなにすごいことできたのね」
「まあね」
少し得意気になって、初めてきれいに出せた光の魔法を見る。

これが練習の成果だ。
霊夢が、喜んでくれたから、これでいい。
「少しそのままにできる? お布団しき終わったら、もう寝よう」
「そうだね」
まだまだ簡単な魔法を使うのにも体力を使うし、今も本当は少しきつい。
でも、霊夢のためなら。
「よし。寝ましょうか」
「うん」
魔法を使うのをやめて、布団に入る。
「ねえ魔理沙、私魔理沙の魔法好きよ」
「ん」
向い合せになって、お互いの手を握り、目をつぶって。
少しうるさい雨音を聞きながら、眠りについた。




「なあ霊夢、私にいい考えがある」
「なあに」
「まあ見てろ」
スカートのポケットから瓶を取り出し、その中から少しだけ。
それを上に高く放り投げて、昔と同じように心の中で“光って”と唱える。
「たまには私を頼るんだな」
「……そうね」
「指は?」
「平気よ」
「そうか。もう酒はいいから、布団敷こうぜ」
「待ってなさい」
昔よりも強くなった光は、ほんの少しの金平糖を光らせるだけで、十分周りが見えるほど。
あれからどれだけ霊夢を喜ばせたくて練習したことか。
絶対に教えてやらないけど、霊夢があの時と同じような表情をしてくれたから満足。
「今回は魔法、すぐ消さないでね」
布団を敷き終わった霊夢が笑う。
今回は。 ……覚えていたのか。
「ああもちろん、思う存分私の魔法の魅力に浸るがいい」
昔と同じ、得意気な顔をしながら。



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